売上管理のため、帳票作りに追われる小売企業の現場
当社が小売企業様からよくリクエストいただくことの一つに、「売上管理において用途や報告対象が色々あって帳票作成業務が多く、結構時間がかかっている。それってAIでなんとかならないの?」というものがあります。
具体的には、期間別、商品別、仕入先別などの用途別や、経営層向け、調達部門向け、販促部門向けなど報告対象別に、それぞれ知りたい情報が異なるためその都度帳票を作成しています。その際、必要な数字だけを抜き出すために、複数の帳票を見比べて参照したり、内訳や合計の精査をしたりなどしており、積み重なると現場にとって負担が大きいという現状があります。
これは、売上管理に携わる部門や担当者であれば小売企業に限らずどの企業でも共通する困り事です。しかし、スーパーや量販店などの小売企業においては、扱う商品数が千単位・万単位ということが多いのが特徴で、また商品マスタ管理を、本部主導と現場主導が混在することも一般的です。
たとえば「去年と今年の9月の丸の内店のオーガニック系商品の売上の比較をしたい」とします。その際、もしも生鮮や日配などの部門を横断しうる「オーガニック」という軸が店舗管理だった場合店舗に連絡して・・・など、その再集計の手間は本部・現場ともに、またか・・・とため息をついてしまうものです。なので、「AIでこの作業どうにかラクにできないの?」というのが小売企様の悩み事なのです。

なぜAIは使いにくい?
最近では、マイクロソフトのCopilotやグーグルのGemini、オープンAIのChatGPTなど一般でも使えるLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)をベースとしたAIチャットが広がってきており、利用者は増えています。
しかし、いざ仕事の効率化のためにAIを活用しようとすると、社内データやファイルを正しく参照できなかったり、社内や業界特有の背景、知識、慣習、言葉遣いなどを汲み取れないことで、的外れな回答を得たりなどの使いにくさがあるのが現状です。また、調査や分析のようなタスクをお願いすると、一見それらしい答えを返してくれるが、実は本当はそうではなかった、というようなことも起こり得ます。
AIは「できません、わかりません」と答えない代わりに、わかる範囲で答えようとします。しかしAIのわかっている範囲がもし間違っていれば、正しい答えを引き出すことはできないため、正しいデータや手順を引き出す「基準となる考え方」を仕込むことが必要となります。それを当社では「思考ロジック」と呼んでいます。

ジャイナミクスのAIエージェントの特長と強み
当社では、小売企業向けのAIエージェントの開発に取り組んでいます。小売企業特有の知識や慣習を鑑みた思考ロジックを持たせることで、ちょっと頼んだことと違う・・・という微妙な使いにくさを解消します。具体的には、既存のLLMを業務利用する際に不足している点として「ユーザー指示の理解」と「タスクの種類判定」の二つがあります。
たとえば、上のイラストに示した「先月の○日のアイスクリームの売上が昨年度と比べて少なかったのはなぜ?」とユーザーが尋ねた場合を例にします。本当の原因は「発注漏れによる欠品」なのに「例年の○日の平均気温よりも1度低かったことが原因です。」という一見正しそうな回答を得ることで、本当の原因を見逃すということが起き得ます。もちろんLLMは「欠品」も「発注ミス」も知識として知っていますが、小売企業にとっては大問題な欠品がLLMにとっては優先度が低いこととして認識されかねません。
なぜこのようなことが起きるかというと、LLMは、より多くの人が選択する言葉を選ぶという特性があります。一般的に世の中では、アイスは暑いときに食べたくなると紐づく人のほうが多いでしょう。しかし小売業界を知っている人であれば、天候よりも欠品の確認が上位の重要ファクターとして扱われます。売上の値を見て小売企業が何を気にするかというユーザーの文脈の理解と、発注や在庫のデータを探しに行き、次にそれを照らし合わせるというタスクの発想が必要になる、というわけです。東芝テックが長年培ってきた小売業の知見をAIエージェントのプロンプトの中に組み込めるところが当社の強みです。
一方で、小売業特有の知見があるだけでは成立しません。タスク定義を行う際に「どの程度ゆるくor厳密に定義をするか」のバランスが、データサイエンティストの技術とノウハウを必要とする部分です。定義をゆるくしすぎるとやってほしいことに対して雑な回答が返ってくる、一方で厳しくしすぎると一昔前のFAQボットのような「わかりません」という回答が返ってくることとなります。ゆるさ・厳しさの良い塩梅を探るには、データ分析やLLMの専門性と、業務領域知見の二つが備わっていることが肝となります。

東芝テックの小売業界の知見と、東芝グループの培ったデータサイエンスの技術力を併せ持つ当社だからこそ実現できる領域です。
ジャイナミクスでは、AIエージェント構築に関心のある企業様と共に、使う人にとって「もっとラク」なAIエージェントを開発したいと思っております。お気軽にお問い合わせください。
消費者のライフスタイルや嗜好の多様化によるサービスの複雑化や、たとえば食品スーパーでは近年は店舗数が増加傾向などの働き手の負担増に対し、省人化・効率化、競合との差別化をはかるために、小売業界のDXやAIを加速させることが必要です(※1)。
POSデータを有効なDX資産として活用する
POSデータ利活用のハードル
小売業のDXを進める有効な手段のひとつに、現状では眠っているPOSデータをDX資産として活用することが挙げられますが、POSデータ特有の複雑な環境が課題となります。
現在は個々の企業内でクローズドになっているPOSデータ環境のクラウド化と並行して、POSデータを「使いやすいカタチ」に整理整頓していく必要がありますが、一店舗で何千種類と商品を抱え、同一企業内の店舗間においてもマスタ管理にバラつきがあるなど、データ整備だけでも膨大なコストが必要となります。
自社の将来を見据えてDX投資を適切に進めるためには、戦略や目的の明確化はもちろんのこと、AIやデータサイエンスを含むDXに関連した技術的知見と資金力も必要となってきます。

商品情報の統一化
商品マスタにおいては、経産省が、これまでは個社で管理していた商品情報を産業界を横断して活用できる統一化した商品情報の実現に向け、検討を始めています(※2)。
これによりメーカーと小売の分断がなくなり、サプライチェーンの効率化、在庫不足の減少、スムーズなモノの流通のほか、Eコマースのさらなる普及、消費者自身が商品情報を正確に把握することが可能になるなどが期待できます。
自社のDX戦略を精緻に検討することのほかに、このような世の中の流れを汲むことも、最短経路かつ最小限の投資で最適なデータ環境の構築に繋がっていきます。
ジャイナミクスでは、POSデータのクラウド環境構築を通じ店舗の見える化、AI活用をサポートします。
※当記事はジャイナミクスが寄稿した東芝テック「小売業界の人手不足をPOSデータ利活用で補完していく」(2025年6月9日)から一部抜粋して掲載しています
※1 スーパーマーケット統計調査事務局 スーパーマーケット店舗数
※2 経済産業省「第1回商品情報連携標準に関する検討会 議事要旨」(令和6年11月28日)